雑文集積所

フワンテル形、またはファンテール書体について

2016年現在、「ファンテール」と聞いて即座に字形を思い浮かぶ人はごくわずかだと思われる。明朝体や楷書体などと比べればマイナーな書体だからだ。しかし「任天堂の漢字ロゴ」と表現すれば「アレか」と字形を思い出す人は少なくないだろう。横線が太く縦線が細い書体の名称が「ファンテール」なのである。

このファンテール書体、はじめて制作された時期が正確には分かっていない。英語には「クジャクバト」「扇形の尾」といった意味を持つFantailという単語があるため欧米発祥の書体と考えられている。1889年にアメリカで刊行された"Convenient book of specimens. Franklin type foundry"という活版書体見本帳に"Fantail"という名称の書体が掲載されている(参考)

日本におけるファンテール書体の最古級の使用例としては1903年(明治36年)刊行の『東京築地活版製造所活版見本』という活版書体の見本帳がある。この見本帳にに「フワンテール形」としてファンテール書体の使用例が掲載されている(参考)。見本帳の刊行時期を考えると、前述の"Fantail"を参考にして和文活字が作られた可能性が高い。活字用に作られた和文の書体としては古参の部類といえるだろう。

ファンテール書体が広く使われたのは写植全盛期の1980年代から90年代だと思われる。写植機メーカー大手の写研が新しいファンテール書体「ファン蘭」を発売したのもこの頃である。ファン蘭は広告や各種出版物だけではなく社名ロゴタイプなど広範に使用された。

しかし、21世紀に入ってからファンテール書体の新たな使用例を見かけることが減った。「ファン蘭」が写研の独自システム上でしか使用できない書体であるという理由も大きいが、大手フォントベンダーがファンテール書体を発売していないことを踏まえると需要がないのかもしれない。ただ、百年を優に超える歴史を持つ書体が忘れられていくのは勿体ないことだと思う。

(2016/12/04 公開)

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